えもいわれぬ

ぽてちのブログです。読んだ本とその感想の記録をメインに、日々のレポートもしています。

湊かなえ『ポイズンドーター・ホーリーマザー』読んだ感想・考察など ※ネタバレあり ~前編~

 

こんにちは。

今日は以前読んだ、湊かなえさんの『ポイズンドーター・ホーリーマザー』に関する感想や考察を書いていこうと思います!

この前の『ユートピア』の感想はネタバレありませんでしたが、

本日はネタバレありますので、注意してください。

 

sugarpotato.hatenablog.com

 

 

 

◇◆◇本の概要◇◆◇

この本は、6作品が納められた短編集。本のタイトル『ポイズンドーター・ホーリーマザー』は、当作品の最後の短編「ポイズンドーター」「ホーリーマザー」の二つからきている。

収録作品は以下の6つ。

「マイディアレスト」

「ベストフレンド」

「罪深き女」

「優しい人」

「ポイズンドーター」

ホーリーマザー」

 

 

一つずつ考察していきます。

作品を読んでいる前提の考察になってしまいますがお許しください。

それぞれの作品の概要は簡単に書きますね。

ネタバレがあるので、苦手な方はここで読むのをお控えください。

 

 

 

 

「マイディアレスト」

概要

事件に巻き込まれてしまった妹のことを話す、6つ年上の姉の目線で物語が進む。

妹は妊娠していたが、町で妊婦を狙った暴行事件が多発していたその時期に、深夜外出中に殺害されてしまう。

 

妹がいなくなったと気づく直前、何をしていましたか?

「――蚤取りをしていました。」

 

この言葉がすべての真相といっても過言ではない。

 

親に厳しく育てられた姉と、甘やかされて育った妹。

 

男性との交際を許されてこなかった姉は、家族といても疎外感を感じている。

唯一の癒しはネコのスカーレット。通称、スカ。

 

姉はスカの蚤取りをよくしてあげている。

特に、卵で腹を膨らませた蚤をつぶすのは、プチンとはじける音が心地いいので夢中になってやってしまう。

 

 

 

事件のあった夜、妹と一緒に散歩に行くと、部屋にいるはずのスカがなぜか外にいた。

妹がスカを外に出してあげたのだった。

 

姉が知らない間に、スカにも愛すべき猫(恋猫とでもいうべきか)ができていた。

ちょうど交尾に出くわしてしまったのである。

 

スカが襲われていると思った姉は近くの角材を拾ったが、妹に「スカはちっとも嫌がってないよ」と言われてしまう。

 

姉はスカーレットがそんなことをするはずがないと思った。

しかし指先に力が入らなかった。

唯一の理解者だと思っていたスカに裏切られたことがわかって、絶望していたのだろう。

 

 

「あーあ、スカーレットに先越されちゃったね」

そう言ったのは、巨大な蚤(=妹)だった。

角材を思い切り振り上げて、蚤の腹に打ち込んだ。そして、最後に頭を潰した。

 

 

 あの夜、姉は確かに「蚤取りをしてい」たのである。

 

 

 

感想・考察

怖いですよね~(笑)

読んでいる最中に、もしかして姉が…と思ったのですが、それでもゾッとしました。

 

マイディアレスト(My Dearest)。

意味は、「親愛なる人」とでも訳せるのでしょうか。

 

・妹を殺す最中も、姉はスカーレットのことを考え、力をもらっていること

・妊婦である妹を殺害したことを「蚤取り」と言っていること

 

これらのことから想像すると「マイディアレスト」はスカーレットのことなのでしょう。

 

そして、いくつか前のページで、スカーレットに「害虫は取り除いてやるからね」と言っている姉。

これは妹も「害虫」ということですよね。

 

物語中によく出てくる「般若」というのは、おそらく長年自分のことを馬鹿にしてきた妹と母親の像。

この般若が出てきたとき、姉は衝動的な行動をとりがちです。

妹を殺した時もそうでした。

 

自分を苦しめてきた妹や母親の像が般若となり、病気的に愛猫の蚤取りをしている姉。

理解者であると思っていた愛猫の交尾に遭遇し、妹に馬鹿にされた姉は衝動的に妹を殺してしまいます。

 

姉は、かなりプライドが高い人物として描かれています。

そんな人物が、①信じていた愛猫の裏切り、②妹からの軽蔑を立て続けに受け、妹だけを殺したのは、スカーレットのことを自分の分身だと信じていた(p.36)からでしょう。

 

 

 「ベストフレンド」

概要

脚本家を目指す作家3人の話。

 

脚本新人賞

最優秀賞 「サバイバル・ゲーム」大豆生田薫子(まみゅうだ・かおるこ)

優秀賞  「月より遠い愛」漣涼香(さざなみ・すずか)

     「それからの秋、終わりの冬」直下未来(そそり・みらい)

 

漣涼香の目線で語られる物語で、この新人賞受賞式をきっかけに3人は連絡先を交換する。

涼香は最優秀賞を取った大豆生田に、敵対心を持ちつつもメールではいい人を装って交流していた。

 

大豆生田は、デビュー当初の成長は芳しくなかったものの、賛否両論を生む結末で話題になり、徐々に有名になっていった。

涼香はそんな大豆生田の姿を妬ましく思う。

 

 

大豆生田脚本の映画が銀の鈴賞という賞を受賞し、その映画祭の帰り道に事件が起こる。

涼香は大豆生田が空港のロビーに出てくるのをみると、バラの花束を胸の前に抱え直して大豆生田の前に駆け寄った。

その刹那、後ろに気配を感じ視線をやると、ナイフがちらついた。

ナイフを持っていたのは直下未来だったのである。

 

涼香はとっさに大豆生田をかばうようにして倒れた。

大豆生田に伝えたいことがあったが、それを言う間もなく死んでしまった。

 

そして、大豆生田の回想が始まる。

エゴサをしたら、「月にほえろ」というタイトルのブログで自分に対する誹謗中傷を見つけたこと。

そのブログの内容から、勝手に漣涼香のものであると断定してしまったこと(実際は直下のものだった)。

最後に罪滅ぼしのように、涼香本人のブログの記事を取り上げている。(以下引用)

 

『悔しい、悔しい、悔しい。だが、この悔しさが私を脚本の世界に留めてくれている。夢をあきらめるなと誰よりも強く語りかけてくれるのは、大豆生田薫子なのだ。親友とは、このような存在のことをいうのではないか。親友を得たことを心の底から幸せに思う。この思いを伝えるために、彼女に花を届けよう。そして言うのだ。出会ってくれてありがとう、と』

*1

 

 

感想・考察

この物語は

直下が大豆生田に恨みをもって殺そうとしていた。

そこに涼香が現れ、殺されてしまった。

という解釈ができますね。

とても単純です。

 

しかし、この物語の作者は湊かなえさんです。

直下さんの話はあまり物語中に出てこなかったので、殺そうとした人が直下さんであることには少し驚きましたが、それでも直下さんがいつか出てくるだろうな、くらいのことは予測はできたはず。

 

湊かなえさんの物語だから何か裏があるはず!

そう思っていろいろ考えました。

するとある一つの可能性にたどり着きました。

 

 

結論を急げば、

直下は漣涼香を殺す目的で、事件当日もあの場所に来ていたのではないかと思うのです。

 

以下に自分の考察を落とします。

 

 

 

物語の間あいだには、誰のものかはわからないが大豆生田に対する侮辱的で冷酷な一言がいくつか挟まれています。

 

具体的には、『田舎者はさっさと諦めろ』『プロットの書き方がわかんないとか、脚本家、舐めてんの?』などといった言葉です。

 

これは読者が想像するしかないのですが、おそらく直下のブログに書かれてあったのでしょうね。

 

作中には、大豆生田と涼香がメールでやり取りする場面ももちろんありますが、直下と大豆生田が連絡を取っていることが垣間見える内容が、大豆生田から送られてきたメールで判明します。

 

大豆生田は涼香に、直下と連絡を取っていることをわざわざ話しているということは、つまり、大豆生田は直下にも涼香の近況を伝えている可能性があるのです。

 

大豆生田は最優秀賞に選ばれ新人プロとして活躍、涼香はプロットを会議に持ち込んでもらえたりと、順調な様子を知った直下は、一人劣等感を抱えたのではないでしょうか。

 

自分で推測しておいてなんですが、直下が涼香を殺す動機は正直判りません。(笑)

 

でも、大豆生田と涼香、どちらでもよかった、あるいはどちらにも苦しみをみせたかったと考えると、

 

大豆生田は有名になりすぎて警備体制が整っている。

彼女を殺すことはできないが、その状況を利用して涼香を殺そうとした。

 

つまり、ブログも涼香が書いたように見せかけて大豆生田をあおるような文章を書きつつ、涼香本人のブログも特定し、読んでいたのではないでしょうか。

 

だから、涼香の感情の変化と、直下のブログ(と思われる)の冷酷な一言が妙にぴったりと当てはまっていた。

 

涼香のブログを読んでいれば、おのずと映画祭後の空港に涼香が来ることも分かったのであろう。

直下は屈辱を晴らそうと、あえて大豆生田と涼香の二人がそろったところで犯行をおこなった。

 

 

大豆生田を標的にしていたら、直下は涼香のあとを走ってきて殺さないと思うんです。

涼香は大豆生田に覆いかぶさるようにして倒れたとありますが、それさえも直下の計算下にあったら…と考えました。

 

私の考察はこんなところです。

真相はわかりませんが、この物語は単純に解釈するべきものではないと感じます。

 

あくまでも私のただの考察なので、うのみにしないでくださいね( ;∀;)(笑)

 

タイトルは「ベストフレンド」ですが、

本当のベストフレンドとは何なのでしょうね…

 

この物語に出てくる三人をみていると、何も信じられなくなります。

涼香にとって大豆生田は本当にベストフレンドだったのか。

今でも真相はわかりません。

 

 

罪深き女

概要

この物語は結構まとめるのが難しかったので簡単に書きます。

 

登場人物

黒田正幸:「ミライ電機」店内で無差別事件を起こし死傷者15名を出した容疑者。

天野幸奈:中学時代、黒田正幸と同じマンションで暮らしていた女

天野家の母親:シングルマザーで幸奈に男子との交際を認めない。

黒田家の母親:?

 

 

天野幸奈視点

幸奈が中学生の時の話。

黒田正幸はネグレクトを受けていて同情をしてしまう年下の男の子。

黒田家族が住む階上からは物音もしないから、母親も帰ってきていないようだ。

一方的に話しかけているうちに、すこしずつ正幸と打ち解けられた気がして、弟のような存在だと勝手に思っていた

 

正幸の母親は、子供を放っておく最低な母親だと思っていた。

だから、自分が正幸を助けるのだと、幸奈の母親の目を盗んでは世話を焼いていた。

 

ある正月の日、初詣で正幸がお母さんと手をつないで歩いているところに遭遇した。

正幸の母親は、幸奈の母親に「今度結婚することになって、引っ越すんです」という旨を伝えた。

 

それからしばらくして、正幸の母親が何者かに襲われて顔に重傷を負った。

幸奈は因果応報だと思っていた。

 

幸奈が母親と喧嘩した日、外に出ると正幸がいた。

正幸に「助けて」といったら、その夜マンションが火事になった。

 

幸奈は寝ていたが、外から男の子の声で「おねえちゃん!」という声が聞こえたから、正幸が助けてくれたのだと思った。

 

火事では、幸奈の母親と、正幸の母親が犠牲になった。

 

それから数年がたって、無差別事件が起こる数日前に「ミライ電機」で正幸と遭遇。

正幸に数年ぶりに出会えたうれしさに自分の幸せな近況ををぺらぺらと話してしまうが、正幸は幸せでなかったから裏切られた気持ちになったに違いない。

 

もしかすると、幸奈に恋心があって唯一信じられる人だったのに、その人に裏切られた絶望感から彼が今回の事件を起こしたのだと思う。

 

すべて悪いのは私だから、私を罰してください。

 

 

黒田正幸視点

中学生の時。

母親から放置されていたことは一度もない。

 

階下に住む天野幸奈の母親から執拗な嫌がらせを受け、正幸の母親は気配を消して生活するようになったのである。

そして、正幸の母親の交際相手も、正幸を大切にしてくれていた。

 

優しかった母親が変貌したのは、顔に怪我を負わされた上、職場に母親と交際相手の児童虐待を告発する文書が数回届いたことから、交際相手がノイローゼ気味になり婚約破棄になった頃からである。

 

この一連の犯人は幸奈の母親であると疑っている

 

火事が起きた時、放火をしたのは正幸だが、母親からの暴力に耐えかねたことが理由であり、幸奈は全く関係ない

 

 

そしてついこの間、家電ストアで幸奈にあったことは覚えているが、幸奈だとは気づかず、頭のおかしい女が急に話しかけてきたと思っていた。

 

犯行の動機は「運の悪い人生に嫌気がさしたから」である。

 

 

 

考察・感想

この物語における天野家の娘と母親は、思い込みが激しい部分があります。

 

幸奈は特に、一方的に想像しただけの正幸の境遇や気持ちを、まるでそれが正解のように語っています。

その姿にはかなり気色の悪い印象を受けました。

 

幸奈視点と正幸視点で矛盾している点は数々挙げられますが、この主観同士のぶつかり合いでは、どこまでが本当でどこまでが嘘かはわかりません。

しかし、正幸の人生は「女」によって変えられてしまっていることがわかります。

 

 

幸奈は正幸との関係を述べた最後に「私を罰してください」と言っていますが、絶対思ってないですよね(笑)

 

懐かしい、正幸との二人だけの思い出に酔っているようにみえます。

二人だけの秘密をこれ見よがしに話したいだけです、きっと。

疑いすぎですかね(笑)

 

そして、この幸奈の一方的で気持ち悪い話を聞かされた正幸は、取調室で唯一もっている権利「黙秘権」も剥奪されてしまいます。

 

変な言い方かもしれませんが、幸奈の話を聞くまで黙秘を続けていて、幸奈の話でどうしても訂正したい場所があって口を開いたということは、幸奈に黙秘権を剥奪されたとの解釈もできるのではないかと思います。

 

正幸の母親が暴力的になったのも、もしかすると天野家の母親のせいかもしれないし、その娘は気持ち悪いくらいの世話を焼いてくる。

そしてもう関係の途切れた数年後の取調室においてもまだ、天野家の人がかかわってくる。

 

完全に不運としか言えないですよね…

 

 

タイトルの「罪深き女」。

 

それは正幸の母親のことではなく、

きっと天野家の母親のことであり、また、取調室まで間接的にでも付きまとってきた娘幸奈のことでもあるのでしょう。

 

それにしても、過去の人間に狂わされた正幸が無差別事件を起こした店の名前、

「ミライ電機」だなんて…

皮肉ですね。

 

それとも、一つ前の話の犯人「直下未来」さんと何か関係があるのでしょうか(まあ、ないでしょう)。

 

 

中編へ

長くなってしまいそうなので、まず初めの3つの物語について考察をしてみました。

続きは中編・後編で書きます!

 

 

sugarpotato.hatenablog.com

 

 

ここまで読んでいただきありがとうございました。

 

 

 

こちらの本は、かわいらしいクマの人形が印象的な表紙。

姉と妹、母と娘、男と女…それぞれの心情がエッセンスとなって、物語を深くしていきます。

 

ポイズンドーター・ホーリーマザー (光文社文庫)

ポイズンドーター・ホーリーマザー (光文社文庫)

 

 

 

 

 

 

 

*1:湊かなえ「ベストフレンド」『ポイズンドーター・ホーリーマザー』光文社、2018年、97頁