湊かなえ『夜行観覧車』 原作 犯人 ネタバレ、感想、考察!
こんにちは。
今日は湊かなえさんの小説『夜行観覧車』の感想を書かせていただきます。
ネタバレ含むので苦手な方はお控えください。
あらすじ
高級住宅地「ひばりヶ丘」に住む遠藤家・高橋家・小島さと子の3家の視点で物語が進む。
これはたった3日間ほどの出来事がまとまった作品。
7月4日零時頃、高橋家の主人高橋弘幸が救急車で運ばれる。その後死亡。その妻高橋淳子が自首し、自分が殴ったと供述している。
高橋家には夫婦の他に子供2人が暮らしているが、姉の比奈子は友達の家にお泊りをしていたため不在。弟の慎司は事件が起きたとされる時間、勉強の気分転換にコンビニに行っていたため不在、その後行方不明。慎司がこの時間にだけコンビニに行っていたこと・その後行方不明であるのが不審であることから、一部では慎司が犯人で、それをかばうために母親が嘘をついているとの見方もあった。
遠藤家
遠藤啓一:一家の主。事なかれ主義で、毎日平和に暮らすことだけを考えている。
遠藤真弓:啓一の妻。昔から家にこだわっている。彩花に期待していない。
遠藤彩花:私立受験を失敗してから卑屈になり、癇癪持ちになる。「坂道病」にかかる。市立A中学校に通う。
高橋家
高橋弘幸:医者。温厚な人物で、子供に勉強を押し付けたりせずやりたいことをやりなさいと言う。
高橋淳子:弘幸の妻。弘幸のいうことに従順で、人を殺すような人間ではない。
高橋良幸:高橋家の長男。医者のたまご。弘幸と前妻の間にできた子供。前妻は交通事故で亡くなり、淳子と結婚した際にひばりヶ丘に引っ越す。現在は関西の大学にいるためひばりヶ丘の実家にはいない。
高橋比奈子:彩花が受験失敗した名門S女子学院高等部に通う。「鈴木歩美」と仲が良く、事件当夜もこの友達の家に泊まっていた。
高橋慎司:進学校の私立K中学校に通う。彩花と同い年。バスケ部で、顔立ちも良いため他の学校でも噂になるくらいの人物。自分はそんなに頭が良くないのに、母親から勉強を強要されたり医者になるのを無理やり進められたりすることに嫌気がさしている。
小島さと子
近所に住むおばさん。よくいる感じの情報通の人。家族の実態はあまり明らかにされないが、夫はほとんど家に帰ってきていない。息子夫婦は海外赴任で現在海外にいるが、さと子を嫌って日本に帰っても嫁さんの方の実家に行くと言っている。
犯人と動機
犯人は、明記されていないが高橋淳子であると考えるのが妥当。
動機を伝えるには事件当夜の高橋家の様子から書かなければならない。
事件が起こる数時間前、学校から帰宅した慎司は、バスケ部の最後の試合をかけた(母親と「30位以内に入らないと最後の試合は出さない」という約束をしていた)模試がある明日に向けて勉強をしようとするが、集中できない。
なんとなく手元にあったバスケットボールを壁にぶつけると、とても気持ちがよくなって何度も繰り返していた。そこに母親が登場。「やめなさい!」「助けて」という叫び声は、近所に響いていた。それでも慎司は壁にぶつけるのをやめなかった。
そこに、父親が来て「いいかげんにしろ」と一喝。それで騒ぎが収まり、母親と父親は1階(慎司の部屋は2階)に降りていった。しばらくして母親が慎司の部屋に来て「さっきはごめんなさい。気分転換にコンビニにでも行って来たら?」と1000円札をポケットに入れる(実は入れるふりをしただけだった)。
慎司は玄関に行き、そのままコンビニに向かった。その時父親の姿は見ていない。
良幸は、この時点で母親は父親を殺していたと推測する。そして慎司が財布も携帯も持たずコンビニに行っている間に殺したことにするため、1000円札をわざと入れずコンビニ店員に印象付けようとしたのだと推理。
父親が殺される前の父と母のやりとりを簡単にまとめる。
父「お前が勉強、勉強と言いすぎなんだよ。高校なんでどこでもいいじゃないか」
母「駄目よ。医学部に行くならN高校(進学校)に行かなきゃ。良幸くんだってそうだったじゃない」
父「あれは良幸が選んだんだ。慎司は慎司がやりたいことをやるのが一番いい。バスケだってできるし顔立ちだっていいし、アイドルにだってなれる」
母「良幸くんが医学部に受かった時は喜んでたじゃない。慎ちゃんだってまだまだこれからよ」
父「それは嬉しいが、あんなにおかしくなるまで勉強する必要はない」
母「それってどういう意味?」
父「慎司はもういいってことさ」
淳子は一人で、前妻とどちらが夫弘幸を喜ばせられるかを競っていた。
その手段は、夫が喜ぶ子供を育てるということだった。良幸が医学部に入ったことに夫は喜んだから、それ相当かそれ以上の子を、慎司を、育て上げなければと思っていた。
それなのに、夫は慎司に期待していないということがわかり、淳子はこれまでの自分の育て方を全否定されたような気持ちになったのだろう。
考察
遠藤家の一悶着
事件があった次の日5日の夜(事件は3日24時頃だったので、体感的には2日後ということになるが)、遠藤家でも一悶着あった。
小島さと子の助けでなんとか落ち着いたが、遠藤真弓がその子彩花の上に馬乗りになり、窒息させ殺そうとしていた。
この出来事は、物語の中でも大切な意味を持っていると思った。
高橋家の事件で、人を殺すわけがないと思われていた淳子が夫を衝動的に殺してしまったいきさつを、暗に示している出来事だと感じた。淳子が夫を殺害したいきさつを、物語中で誰かの推測という形で示すよりも、事件に近い遠藤家の出来事、しかも3日もあけずそれが起こることによって、より具体的に、臨場感を持って想像することができる。
坂道病
彩花によると、坂道病とは「普通の感覚を持った人が、おかしなところで無理をして過ごしていると、だんだん足元が傾いているように思えてくる。精一杯踏ん張らなきゃ転がり落ちてしまうけれど、意識すればするほど坂の傾斜はどんどんひどくなっていって、自分自身が歪んでしまう。その歪みに気付かないから、背中をトンと軽く押されただけで、バランスを崩して転がり落ちてしまう」というもの。
簡単に言うと、身の丈に合わないところで無理して生活していると、だんだん苦しくなって自分というものを見失う。そこに何かしらのイベント(それは実に軽いもので、トリガーだと気づかない)が起こった時、途端に冷静にはいられなくなる、ということである。
遠藤家での出来事は完全にこれによるものである。彩花は毎日のように癇癪を起しているから何でもないことだが、真弓はもう限界で、この日の彩花の癇癪がトリガーとなったのである。
彩花は、小島さと子も坂道病だといった。
スパンコールをつけた手作りのバッグをいつも持ち歩いていて、それをひばりヶ丘に例えていた。自分の過去の大切な場所を、時代の流れに逆らいながらずっと理想の形で守り続けることにこだわっていた。
感想
一度読んだことがあるが、真犯人が自首して、結局犯人が変わらないというのに衝撃を受けたのを思い出した。
『Nのために』と頭の中がごちゃごちゃになっていたが、今回再度読んでちゃんと整理できたので良かった。
「夜行観覧車」というタイトルの由来は、推測の域を出ないが、遠藤家・高橋家・小島さと子の3つの視点でぐるぐると物語が進んでいく様子を「観覧車」、物語は比較的夜の描写が多く、夜に物語が発展することが多かったから「夜行」なのかな、と思った。
また、物語中にも観覧車が出て来るが、最後の小島さと子の台詞「長年暮らしてきたところでも、一周まわって降りた時には同じ景色が少し変わって見えるんじゃないかしら」という部分は、何を意味しているのか考察できなかった。
このブログでは真犯人を高橋淳子と推測している。
最後に出てくる週刊誌の記事では、夫が教育熱心で慎司に圧をかけ、慎司を守るために淳子が夫を殴って殺した、という趣旨の記事になっているが、高橋家の兄弟話しているときに「真実を知っているのは俺たちだけでいい」といっていることから、世間的には父が毒親としてみられることになっていても、真実は優しい父親だったということだと思う。
読み進めるにつれ、段々と真実が明らかになっていくのがとても面白い。
坂道病はきっとこの世界にも数えきれないくらい存在しているし、いつでも自分が背中をトンと押してしまう人になりかねないのだと、考えさせられる小説だった。
おわりに
最後までお読みいただきありがとうございました!
読んだ人にはなんとなく伝わると思いますが、読んだことがない人にはわかりづらいまとめ方になっていて申し訳ありません。
私は夜行観覧車の表紙が大好きで、お金が貯まったら自分でハード本を買おうかなと思っています。
気になった方は是非読んでみてください(*^▽^*)
最後に本のリンクを載せておきます(^^)/